出会いを大切にしたい
俺が大学四年の時の話。
俺は趣味、というのか本気というのか、その頃四輪のレースに打ち込んでいた。
マシーンは日産サニーB-110クーペのフルチューンだ。
本当はエンジンを“東名自動車”で仕上げたかったのだが、金がないから少しでも安い別のチューナーで仕上げてもらった。
ピークパワーは同じだが、トルクバンドが狭くて乗りにくい車になっていたが、俺は気にしなかった。
こんな話をすると、俺の年がバレてしまうな。
そう、俺は今年60歳になるジジイだよ。
懐かしい思い出だ。
まあ、それは横の方にどけておいて、出会いの話にしよう。
8月のスレッシュマンレースに出場した時の話だ。
予選順位が久しぶりに上位の“5位”からスタートした俺は、順調に周回を重ねながら、ポジションを3位まで上げていた。
いい気分だった。
最高の気分がぶち壊しになったのは、あと3週でフィニッシュと言う周回の最終コーナーでの出来事だった。
突如、エンジンがブローして息の根を止めてしまったのだった。
惰性で走るマシーンを俺はエスケープソーンに止めることしかできなかった。
残念だった。
このままいけば久方振りの表彰台だっただけに、いきなりエンジンがお亡くなりになったことが信じられずに、しばらくコックピットから動くことができなかった。
しかし、真夏のコックピットは優に50度以上の温度があり、いつまでもなかにいるわけにはいかず、意を決してマシーンを降りた。
カーレースというものは、結構体力を使うものであり、おまけに俺は精神的にダメージを負っていたためピットまで歩くことが億劫になり、金網のところにへたりこんで回復に務めることにした。
俺が金網にもたれてへたりこんでいると「大丈夫ですか?」と言う可愛い声が背中から聞こえた。
俺は振り返りもせずに「ああ、申し訳ないが売店でコーラを買ってきてくれないかな。
後でお金を渡すから、お願いだ」と言うと、「はい、冷たいコーラを買ってきますね」と言う返事が帰ってきた。
どれ位待ったのかはわからないが、広いFISCOのなかで売店はそう沢山ある訳ではないので、時間がかかったのは確かだった。
相変わらずに俺はへたりこんだままだった。
その時に、「すいません、待たせてしまって」と言う声が背中から聞こえ振り向くと、夏目雅子をもっと美人にしたような女の子が、汗まみれでコーラを手にして佇んでいた。
俺は感動した。
しかし、コーラは金網を抜けることができなかった。
仕方なく俺は意を決して、金網をよじ登り、彼女のところへ行き、コーラを受け取って一気に飲み干した。
これが俺と、妻の出会いだった。
ちょっとだけドラマチックだけれど、その後の俺たちは至極常識的に年を重ねて行き、現在は結婚33年目を迎えている。
それなりにいろいろなことはあったけれど、実に幸せなこれまでの人生だった。
それもこれも、妻が居てくれたればこその話だ。
出会いは、どこに転がっているのかはわからない。
だからこそ大切にしたいものだ。
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